前の話: 【不思議】白き龍神【宮大工シリーズ24:番外編】

はるか昔、天界におわす大神様に仕える少女がおりました。


大神様は天界を統べる光の神であり、
大いなる慈悲の心と厳しい律の心を併せ持つ偉大な方でした。
少女は幼き頃より大神様の教えを受け、厳しい修行を受けてきたのです。


そして、その少女を見守る青年が一人。
彼は少女の幼馴染であり、本当の兄妹の様に一緒に育ってきました。


そして、彼と少女は伴侶としての運命を持ち、
行く行くは大神様の為に二身一体となり力を尽くす事が決まっていたのです。
二人はそれを当然のように受け止め、励まし合いながら修行をしておりました。

青年は優れた能力と深い心を持ち、若くして大神様の右腕となりました。
そして、少女も修行を終え、しばらくの間とある地方を守護する事になったのです。
その守護はとても長い期間ですが、それを無事に終えれば
青年と少女は伴侶となり大神様に仕える事が出来ます。
少女は少年と誓い合うと、旅立っていきました。

そして、悠久なる時が流れました。


流れる時間の中で下界の人々は祈りと感謝を忘れ、
少女が拠代とした社からも神主は居なくなり、社は少しづつ朽ちていました。


それでも少女はごく稀にやってくる人々の為に精一杯心を砕き、そこに在りました。
そんな時、いよいよ朽ち果てようとした社に一人の男がやってきました。

 
彼は希望に燃える目と心、自らの仕事に対する熱い責任感と誇りを持ち、
朽ち掛けていた社の修繕に掛かりました。


鳥居を潜る度、きっちりと礼をし、そして寝る間も惜しみながら
夢中で社を修繕してくれるその男に少女は深く感銘を受け、
またとても嬉しく思いました。


それ以来、少女の心は少年よりも、そして大神様よりも
その男によって占められてしまったのです。

しかし、少女の心に気付いた大神様は怒り、少女に罰を与えました。
少女の社は崩され、少女は呼び戻されてしまったのです。


少女は大神様の元で閉じ込められ、そして毎日泣きながら男を想っておりました。
そんな少女を悲しげに見守っていた青年は、少女に問い掛けました。
そんなに、あの人間の男を愛しているのか、と。
我々が瞬きする間に年老いて死んでいく人間の男で有るのに、と。


少女は青年に心から謝りながら、例え幸せな時間が一瞬で終わろうとも、
男と共に生きられるなら悔いはない事を伝えました。
青年はそれ以来、少女の前から姿を消しました。

間もなく、少女は大神様に呼ばれ、

そして自分の望みが叶えられる事を聞かされます。


 彼女は下界へと転生し、男と巡り合う運命を持たせてもらえる事になったのです。
そして、その準備の為に一人の少年が少女の為に働く事になりました。


その少年はどこかで逢った事が有る様な、不思議な懐かしさを持っていました。
そして少年の協力により全ての準備が終わり、
いよいよ転生となる直前に大神様が仰いました。

少年は、少女の代わりに罰を受け、
それまでの資格と力を奪われた青年の姿である事を。


そして、自分の力を献上する事により、
 少女の願いを叶えてくれる様に大神様に訴えたのだと。
 大神様は青年の優しさと愛に心動かされ、特別にお認めになってくれたのだと。


「・・・そして、少年は今でも、人間の男と結ばれた少女を

見守ってくれているのです。」


と、沙織さんは一筋の涙を流していました。
暖かな太陽の光が差しこむ縁側で、
微かに笛の音が聞こえた様な気がしました。