弟が道玄坂のアパートで実際に体験した話です。
弟から直接聞いたので、本人の話すように書き起こします。




友達が道玄坂に安い不動産を見つけて、そこに引っ越すというので、バンド仲間も呼んでの4人でやることになった。

当日、4人で荷物を運び入れて、まだ片付いてはいなかったけど、とりあえず今日はここまでにして、引っ越し祝いで騒ごうという話になった。俺は普段からチェキ(小さめのポラロイドカメラ)を持ち歩いているので、引っ越し記念に窓際にみんなで並んで、一人がシャッターを押した。
俺ともう一人は残って掃除しながら場所を作ることにして、残った二人は買い出しに行った。

しばらくして二人が戻ってきた。すると玄関に立ったままの二人の片方が、

「おい、それなんだ?なんかその汚い布団」

と言って部屋の隅のほうを指さした。

布団が置いてあった。もちろん俺には見覚えはないし、さっきまで掃除してたのに、こんなのあったかな?と思って見た。

「なんだこれ?」

俺の横に座っている友達、その布団に一番近くに座っていた友達が、その布団を見ながら首をかしげた。

と、玄関の一人が

「あ・・・おい・・・それ・・・」

ふるえている。

俺はその友達を見て、もう一度布団を見た。

違う。布団じゃない。

汚れてボロボロになって置いてあったかのように見えたそれは、布団じゃなくて…よく見ると、女がうずくまった「モノ」だった。

俺は動けなかった。一番近い所に座っている友達も無言のままかたまっている。

硬直したその場を動かしたのは、玄関にいて、最初に「布団」を発見した友達だった。

「う、うわああぁぁぁ!!」

裸足のまま玄関を飛び出すと同時に、同じ玄関にいたもう一人も裸足のまま悲鳴をあげて逃げてしまった。

俺はいまだかたまったまま、「布団」を見ていた。
だけど、それは、動いた。

動くと「布団」の端から、汚れていて、細すぎる「腕」が見えた。
布団だとおもっていた服に、髪がくっついている。長い、黒い髪。つっぷしたままの状態で、「布団」は動いた。

ゆっくりと動いて、硬直した友達にゆっくり、ゆっくりと近づいていく。

友達の、すぐそば60センチの場所に、黒っぽい汚れた布団のような女がいて、近づいてくる…俺は怖かった。

でも、触られたらマジでヤバイ!そう思った瞬間、考える暇もなく体が勝手に動いて、かたまったままの友達を引っ張って、そのまま裸足でその部屋を出た。

もちろん、しばらくはその部屋に戻れなかったけど、近くの知り合いの家に避難したあと、すぐに不動産屋に問い合わせて、部屋に戻ることになった。

不動産屋はすぐに返金してくれて、そのまま理由も聞けずに退室、なぜあの部屋に出たのか、まったく霊感の無い友達にもはっきり見えるほどの「モノ」がいたにも関わらず、割と霊感体質の俺にはそれまで何も感じなかったのか、謎をたくさん残したまま、その部屋には戻らなかった。

ただ、残ったものがひとつ。

引っ越し記念にとった、チェキだ。
見てみた。

窓に3人が並んでいる。

そして、その足下、畳に、画面の端に、それはうつっていた。
黒い髪、汚れた服、4人が見た女だった。

「おい…うつってるよ、これヤバイよ」

友達もどうしようどうしようと青くなっている。
とりあえず、すぐに供養しないと、という話にはなったが、それを見た日は夜だったので、明日寺にもっていこう、という話になったので、その写真を海苔とかせんべいとかが入っているような缶の箱に入れて、別の友達の家に全員で泊まることにした。

怖かったので、交代で寝ずの番をすることにした(なんか出てきそうでほんとに怖かった)

次の日、缶の箱に写真を入れたまま、供養に行った。

寺の住職さんがその箱を見たとたんに渋い顔をしたのをよく覚えてる。
住職さんはすぐにそれを焼いて供養してくれることになった。


俺はホッとしたけれど、一番最後に、イヤなものを見た…

焼かれる写真の画面には、窓に並んだ3人は写っていなかった。


写っていたのは、画面いっぱいの、女の顔だった。